複雑で多彩な人間の姿を学び、「人間とは何か」を問い続けることで
既成概念にとらわれない質の高い実践家へ
学長の生田 久美子です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
本学は二専攻体制で大学院教育を進めています。子ども人間学専攻では「子どもを人間としてみる」ことを重視し、保育・教育分野で日々生じる課題に自ら適切な解決策を導き出せる実践家の養成に力を注いできました。心理学専攻においても同様に、「心理学」と いう学問をベースに、質の高い専門家の養成を目指しています。
二つの専攻は、どちらも“人間を対象にする” という点で共通しています。それぞれ幼稚園教諭専修免許、公認心理師という資格取得を視野に入れていますが、本大学院ではそれ以上に、常に「人間とは何か」を問う姿勢を大切にしてほしいと考えています。
幅広い視野を養い、従来とは異なる保育観、心理観を構築することを目指し、カリキュラムには両専攻とも必修科目に「人間学総論」「人間学概論」「人間学研究法」を組み込んでいます。特に人間学概論は本大学院における特徴的な科目であり、哲学、文学、政治、芸術、自然という、一見すると専門分野に必要がなさそうなテーマと人間を関連付けて学びます。これらの領域において人間がどのように理解され、かつ描かれてきたかを知り、人間がいかに多様で複雑な生き物であるかを認識できれば、固定化された考えから解き放たれることができるのではないでしょうか。こうした科目を学びながら、専門科目の履修に加えて研究指導を受けることで、真の意味での質の高い専門性が高まっていくと私は考えています。長らく“子ども”“高齢者”“障害者”などと一括りにして「こういうものだ」と画一的に捉える傾向がありました。しかし、人間は一人一人が違う心を持ち、また一人の中にも多様な面があり重層的であるという当たり前のことを見直すべき時が来ています。このことがまさに、本大学院が二つの専攻を「人間学研究科」の中に置いている理由に他なりません。広い視野を持ち、常に「人間とは何か」という問いに立ち返って一人一人に向き合う。そうすると、接する相手がどんな状況であれ、自ずと相手に対して尊敬の念を持つことができるにちがいありません。
人間は複雑であり、だからこそ魅力的な存在です。学びを通じて人間の奥深さ、面白さについて、あらためて考えてみませんか。
相互に刺激し、高め合える環境で
自ら考え組み立てる力を養ってほしい。
子ども人間学専攻では、「子どもを人間としてみる」ことを軸としています。「子ども」と
いう概念が生まれたのは実は近代になってからのことで、それ以前は「身体の小さな大人」として扱われていたのです。17世紀のこの「子どもの発見」以降、世界中で様々な教育や支援が広がっていきました。一方で、現代の我々はどうでしょう。「大人と違って独自である」とするあまり、子どもを「人間としてみる」という視点が欠如してしまっている側面はないでしょうか。とりわけ昨今の教育現場では効率化が求められる傾向にあり、多くの問題や行き詰まりが起こっています。そこでもう一度、“子どもの様子をよく見る”という原点に立ち返り、教育全体を立て直そうというのが一つの大きなテーマとなっています。
本学院には20~60代の幅広い年代の院生が在籍しています。中でも保育園や幼稚園、小学校などで働きながら学ぶ人が多く、異なる経験を持つ者同士が互いに刺激し高め合える環境です。問題意識を抱きながら教育現場で働く人が大学院で学ぶことの意義として、普段自分が携わっている場から離れて客観視できることがあげられます。また、すぐに職場で活かせる即効性を追い求めたり、単に手法を覚えたりするのではなく、広い視野でじっくりと研究に取り組み、自分で考え組み立てる力を養うことで、結果的に汎用性を持った成果が得られるだろうと思います。そういう意味で、「人間とは何なのか」を突き詰めていく本学院での学びは、生涯学習の一環となるのではないでしょうか。
「教育」とは私たちの身近にあるもので、いかにもよく知っているもののように思えます。その中で、当然のこととして捉えていること1つ1つを常に問い直し、自分自身を振り返りながら実践を重ねる「省察的実践家」としての素養を、ここで磨いてもらいたいと思います。
広い視野を持つ実践家を目指し、
可能性を信じて様々なことに挑戦してください。
2017年に誕生した国家資格「公認心理師」は、医療・保健/福祉/教育/司法・犯罪/産業・労働と、5領域の広範囲な活動が想定されており、今後は専門知識やカウンセリング技術に加え、他の職種と連携がとれるコミュニケーション能力を兼ね備えた人材が求められています。
心理学専攻ではそんな次世代に活躍できる、広い視野を持った公認心理師の養成を目指しています。特長の1つとして、様々な経歴を持つ教員がおり、多様な視点からバランスよく指導できることが挙げられます。
私自身は、教員になる以前は、保健所の精神保健福祉相談員として相談業務や、こども医療センターの心理職として心理支援にも携わっていました。他の教員には児童相談所の心理判定員、高齢施設での心理的支援、病院の精神科でのカウンセラーなど、各分野で活躍したスペシャリストが在籍しています。
少人数制のため各教員が一人一人とじっくり議論を重ね、目的に向かって共に研究を深めることができます。実習も重視しており、広範囲にわたって体験できるよう充実したカキュラムを整えました。
また、資格を取得すれば終わりではなく、常に己と向き合い自己研鑽に努めることが欠かせません。「省察的実践家の養成」をコンセプトに掲げる本学の大学院での学びを通じて、その土台を養うことができるのではないでしょうか。
もう一つ、心理職を志す人に大切にしてほしいことは、自分の可能性を信じることです。なぜなら自分で自分のことを諦めていては、クライエントに対しても限界を設けてしまいねないからです。自分を信じ、人間を信じることを大切にしながら、様々なことに挑戦し、きく飛躍してほしいと思います。