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研究科からのメッセージ

学長メッセージ

田園調布学園大学 学長 米山 光儀

米山 光儀

学術大学院で「人間」から「専門」を問う

 田園調布学園大学大学院は、人間学研究科修士課程のみの大学院です。同研究科は子ども人間学専攻の1専攻でスタートしましたが、その後心理学専攻が設置され、現在は2専攻になっています。子ども人間学専攻では、幼稚園教諭専修免許状・小学校教諭専修免許状を取得できるようになっていますし、心理学専攻では公認心理師の受験資格を得られるようになっていますから、両専攻ともそれらの資格を取得することをめざす院生も多くいます。
このように、本研究科では、多くの院生たちは修士号を取得するための研究指導だけでなく、専門職に就くための教育を受けています。
 しかし、ここで注意していただきたいのが、田園調布学園大学の大学院は、専門職大学院ではなく、学術大学院であるということです。研究科の名称に「人間学」がついていることからわかるように、本研究科では、人間を研究することを基礎として、その上で保育学・教育学や心理学などの個別分野の学問研究を行っています。高度専門職になるためには、当然のことながら専門知識や技法を知らなくてはなりませんが、その根底には、人間を問う姿勢が必要であり、学問研究をすることで、人間にとっての専門知識や技法の意味を問い直していくことが求められています。
現代社会は、高度専門職を必要としている社会です。しかし、20世紀初頭にM.ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で予言したように、現代においては「精神のない専門人」が問題となっています。本研究科は、単に資格を取って専門職になるのではなく、常に「人間」を問い、そこから「精神のない専門人」ではない専門職を輩出していくことをめざしています。高度専門職を養成しながらも、一方では常に「専門とは何か」を問うというパラドックスを本研究科では貫いています。単に資格を取得して専門職に就くということではなく、大学院で一緒に「人間」を問う学問研究を行うことによって、自惚れることのない「専門人」を輩出していければと思っています。

研究科長メッセージ

人間学研究科 研究科長/子ども人間学専攻 犬塚 典子

犬塚 典子

相互に刺激し、高め合える環境で自ら考え組み立てる力を養う。
子ども人間学専攻では、「子どもを人間としてみる」ことを軸としています。「子ども」という概念が生まれたのは実は近代になってからのことで、それ以前は「身体の小さな大人」として扱われていたのです。17世紀のこの「子どもの発見」以降、世界中で様々な教育や支援が広がっていきました。一方で、現代の我々はどうでしょう。「大人と違って独自である」とするあまり、子どもを「人間としてみる」という視点が欠如してしまっている側面はないでしょうか。とりわけ昨今の教育現場では効率化が求められる傾向にあり、多くの問題や行き詰まりが起こっています。そこでもう一度、“子どもの様子をよく見る”という原点に立ち返り、教育全体を立て直そうというのが一つの大きなテーマとなっています。
私自身が重視しているもう一つのテーマは「人間を子どもとしてみる」ということです。法令で「成人」として扱われる「大人」は必ずしも完成された存在ではありません。人間は加齢とともに脳機能が低下すると思われがちですが、脳は私たちが考える以上に変化する可能性をもち、失われた機能を補い学習によって環境に対応し変化し続けます。
 本大学院には20~6 0代の幅広い年代の院生が在籍しています。中でも保育園や幼稚園、小学校などで働きながら学ぶ人が多く、異なる経験を持つ者同士が互いに刺激し高め合える環境です。職場ですぐに活かせる即効性を追い求めたり、単に手法を覚えたりするのではなく、広い視野でじっくりと研究に取り組み、自分で考え組み立てる力を養うことで、結果的に汎用性を持った成果が得られるだろうと思います。そういう意味で、「人間とは何なのか」を突き詰めていく本大学院での学びは、生涯学習の一環となるのではないでしょうか。
「専門性」は「有償」で行われる活動だけに存在するわけではありません。私たちの社会には無償もしくはきわめて安価に専門的な活動に従事し省察的な実践を行う人々がいます。家族のケアや地域でのボランティア活動も含まれるでしょう。これまで当然のこととして捉えてきたことの1つ1つを常に問い直し、自分自身を振り返りながら実践を重ねる「省察的実践家」としての素養を、本大学院で磨いてもらいたいと思います。

副研究科長メッセージ

人間学研究科 心理学専攻/副研究科長 黒田 美保

黒田 美保

実践と探究の両輪で育む心理学の未来

心理学専攻では、高度な専門性と実践力を備えた人材の育成を目指し、多様なカリキュラムと充実した研究指導体制を整えています。2017年に創設された国家資格「公認心理師」は、医療・保健、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働という5つの分野を中心に、幅広い領域での活躍が期待されています。複雑化する現代社会の課題に応える心理専門職として、その重要性は今後ますます高まっていくでしょう。私もこの制度の立ち上げに関わり、第1回公認心理師試験の試験委員を務めた経験から、心理職が社会的に認知される枠組みの整備が進む意義を深く感じています。
こうした社会的ニーズに応えるために、本学大学院心理学専攻では「省察的実践家の養成」を教育理念に掲げ、知識や技術だけでなく、自らの在り方を省みながら学び続ける姿勢を重視しています。心理相談や心理検査を含む実習にも力を入れており、多様な学外実習に加え、学内に設置された心理相談室での実践もカリキュラムに組み込まれています。教員陣には、スクールカウンセラーや医療機関の心理職、保健所や高齢者施設での心理支援実践者など、豊かな実務経験を持つ専門家がそろっており、多角的な視点からの丁寧な指導が可能です。私自身も大学で教える以前は、公務員として幼児の発達センターに勤務し、発達障害のあるお子さんとご家族の支援に取り組んでいました。また、大学病院などの医療機関でも心理士として研鑽を積みました。加えて、心理臨床の現場だけでなく、研究活動にも力を注いできました。研究的視点と臨床実践を往還しながら学びを深めていくことの大切さを実感しています。
なお、本専攻では、公認心理師を目指す学生に限らず、心理学そのものに深い関心を持ち、純粋に学術的な探究を志す学生の学びも大切にしています。心理学の多様な魅力に触れながら、自らの問いを深めていける柔軟で豊かな学びの場を提供しています。公認心理師を志す方も、心理学の探究に力を注ぐ方も、自分の可能性を信じて前進してほしいと願っています。自分を信じることが、他者を支え、理解し、信じる力へとつながります。人間を深く見つめ、自己と向き合いながら、それぞれの歩みを着実に進めていってください。