4年間じっくり時間をかけて福祉を学んでほしい。
人間科学部 心理学科
伊東 秀幸 教授
神奈川県職員として保健所、精神保健福祉センター、こども医療センターに勤務。精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会委員などを歴任。
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悩みを話せる仲間や先生との出会いこそ財産。
神奈川県精神保健福祉センター勤務 2010年度卒業
荒 達也 さん
公益財団法人の生活支援センターに就職後、県職員に。現在、精神保健福祉の中枢機関である精神保健福祉センターに勤務。将来を嘱望される職員の一人。
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弱い自分を受け入れる勇気を先生から教わりました。
人間福祉学部 社会福祉学科 社会福祉専攻4年生
神奈川県立白山高等学校卒業
中河 恵理 さん
精神保健福祉士の資格関連科目を伊東先生から学ぶ。2020年度国家試験で社会福祉士・精神保健福祉士にW合格。
※所属は取材当時。
伊東:荒くんと中河さんが福祉の世界を目指したきっかけは?
荒:田園調布学園大学は、社会福祉士と精神保健福祉士の受験資格がWで得られ、就職率もとてもよいと知り、迷わずここに決めました。当時は将来の夢がまだ漠然としていましたので、なによりも選択肢が増えることが魅力的でした。
現在神奈川県精神保健福祉センターに勤務しています。いろいろな人から「あの伊東先生の教え子さんだ」と声をかけられ、先生の偉大さを実感する毎日です。
伊東:巡り巡って同じ職場の同僚になったんだなあ、と非常に感慨深いものがありますね。
中河:私はじつは、美術コースのある高校で美大を目指していました。高校の進路ガイダンスで進路を二つ決めてくださいと言われました。選択肢の中に「福祉」という項目があり、「社会福祉ってなに?」と疑問に思いました。ちょうどDCUの先生の話を伺い、福祉への関心が湧いてきて、進路変更という形でこの大学を選びました。
私はもともと人にすごく関心があり、いい意味でも悪い意味でも、人のいろんなことに気づいてしまうところがあって、それを人のために生かすにはどうすればいいかと考えました。大学生活で、そのための技術や知識を身につけることは自分自身のためにもよかったと感じています。
伊東:私は学生たちによく「想像力を持て」と言います。困っている人が目の前にいても、「自分には経験がないからわからない」という訳にはいかないでしょうか?中河さんが今言ったように人間に関心がなければ話が始まらない、そのためにもその人の状況を想像できる人間になってもらいたいとよく話します。
DCUの学生たちはみんなそのように育ってくれている。それを自然にできる人がたくさんいます。
中河:先生からご覧になって福祉の世界で、以前と比べて大きく進歩したこと、変わってきたことはありますか?
伊東:精神保健福祉士の国家資格ができて約20年、社会福祉士が30年ほどです。国家資格ができると、その分野に関心を持ってくれる若者が増えて、人材の幅も広くなります。この30年という時間の中で「福祉をやりたい」と言ってくれる人が増えたと思います。
一方で、変わってきているようであまり変わっていないのも福祉の側面です。弱いところにしわ寄せが行くのは世の常で、もっと福祉に対するシステマチックな援助が必要だと思います。誰もが平等に救われるような仕組みが作られることが肝要です。また少子高齢化に伴い、福祉の担い手不足は否めません。福祉は専門性の高い仕事です。たくさんの優れた人材が福祉の世界に来てくれればと願っています。
荒:在学生の中河さんにとって、伊東先生はどのような先生ですか?
中河:伊東先生には勉強はもちろん、実習のときに感じる自分の精神的な弱さなどをご相談させていただいたこともあって、そういうことを気軽に相談できるくらい近い存在の先生です。他大学の友達と話していても、うちの大学の話しやすさや先生との距離感の近さ、相談しやすさは特別だと感じます。それは学生として学校生活送る上ですごく重要な部分で、とても心強いです。
伊東:田園調布学園大学の先生は現場出身の先生が多く「自分の後輩を育てる」みたいな思いが強いんです。学生からの相談に全力で答えている。
二人:わかります。
伊東:荒くんは大学での学びで今いちばん生きていることは何ですか?
荒:なによりも、基本から専門的なことまで学べたことです。先生たちは自分の大先輩で福祉の現場をずっと支えられてきた方々なのでそこで吸収できるものは大きかったです。教科書だけなく、「現場では実際こういうことだよ」と、在学中に現場での実際をお話いただけるので、強みにもなりましたね。就職して現場に出て「初めてじゃない感じがする」のはとても心強いことです。
先生は大学での学びと現場との違いはどのように感じられていますか?
伊東:世の中は常に変化していきます。福祉の専門職としては、常に学びその変化に対応しなければなりません。大学では、知識だけでなく基本的なこと、つまり本質的・根本的なことや倫理について時間をかけて学びます。それが卒業した後でも専門職として自ら学び、変化へ適応することにつながるので、しっかりと身につけて欲しいと思います。
先ほど、荒くんが言ったように現場ではいろいろことが起こります。決して教科書通りではありません。しかし何をしてもいいかといえばそうではない。原理原則を持ってことにあたらなければならない。そこが専門職の専門職たる所以であり、まずは原理原則を学び、軸を築く。そうすればやがて応用が利くようになる。常に自分の技術や知識をアップデイトしていく気概が大切ということです。
荒:時代の推移とともに、福祉の考え方や疾患への対応が変わってきているのでしょうか?
伊東:そうですね。私は30年ほど前に今荒くんがいる同じ職場にいました。荒くんが現在行っている対応と、あの頃私が行った対応はまったく違います。
中河:常に進化する専門職、それに対応する為の基礎が大学での学びということですね。
私はソーシャルワーク実習を福祉事務所で、精神保健福祉士実習を医療機関と地域生活支援センターで行いましたが、同じ支援の現場であっても職場によって利用者さんとの向き合い方が異なりました。これからも利用者さんとの関係性、職場の方との関係性で葛藤することもあると思います。お二人はどういうふうにそれを乗り越えられてきたのでしょうか?
荒:私は今の県職に就く前には、地域の精神保健福祉に携わる方々と仕事をさせていただいていて、自分自身もすごく悩んだ時期ももちろんありましたし、そういったときに伊東先生のような大学の先生がこうして近くにいてくださるということが大きな支えでした。
悩むこと自体は悪いことではないと職場の先輩たちからも言われます。私自身も悩まなければ次に進めないと思っています。お互い、人と人との関わりなので失敗しながらともに成長していくことが大切です。社会出て10年くらい経ちますが、今でも悩むことはあります。この世界には決まった解決策はありません。たとえば同じ統合失調症でもAさんBさんでアプローチの仕方がまったく違います。
それから職場に同じ大学の先輩がおり、「きみもDCUの卒業生?」その一言で親近感がぐんと増し、いちばん相談しやすい先輩になりました。僕らだって一人の弱い人間、何かあったときにすぐ相談できる人、愚痴が言える仲間はすごく大切です。
中河:私は完全主義なところがあって、自分の弱いところをマイナスに見てしまうのですが、そういうときに先生が「弱い自分を受け入れる勇気を持つのが大事だよ」と教えてくださって。ですからいま、荒さんのおっしゃったことはとてもよく分かります。
伊東:中河さんはしっかりと自分のいいところも悪いところも目にとまるんです。いちばんよくないのは自分のやっていることがわかっていないこと。「自分はいいことやってる」と押し売りになってはいけない。
また現場にいると、自分も若い頃そうでしたが、どうしても自分のやりやすい方に流れて行ってしまう傾向があります。障害者の方にとって、ご家族にとって、何がベターか考えていくこと。悩んだら、荒くんが言ったように先輩や仲間に相談してみる、そういう姿勢がなによりも大事だと私は思います。独りよがりがいちばんいけません。
中河:先輩や先生に恵まれ、とても心強いです。お二人は福祉の現場で日々気をつけていること、大事にされていることはありますか?
荒:自分としていちばん気をつけているのは、福祉はあくまで人と人の関わり。障害者の方も自分も同じ人間、同じ人として対等に関わることをいつも念頭に働いています。むしろ障害は個性だと思うので、それを生かしてどのように社会で生きていくかが大切です。あくまでも人と人との関わりを大事にしていきたいと思っています。
伊東:福祉に携わる者としては、社会を見なければいけない。もちろん個別に目の前のその人を助けるのも福祉だけれど、社会全体でその人を助ける、制度を作る、そういうところまでが福祉です。その人個人を助けるのであれば医療やカウンセリング、臨床心理の分野です。でも社会福祉となればもう少し社会全体を視野に入れて動かなければいけない。福祉を志す人は、人に関心があり、それを取り巻く社会にも関心があることが大切だと思います。
中河:先ほど伊東先生がおっしゃっていた、資格がすべてではないという言葉が心に残りました。資格はひとつの技術や専門性を証明するけれど、社会の状況が変われば福祉のあり方も変わっていく。社会福祉士という名前を持って仕事をする以上は、常に社会に目を向けて、成長していかなければいけない仕事だと思うようになりました。そういう意味で私はずっと成長し続けられる人でいたいと思います。
伊東:いま中河さんが言ってくれたことを全学生が思い、巣立ってくれればいいなと思います。尊い声だと思います。ありがとう。
荒:長く社会福祉の世界を見られてきた先生が、我々世代に託す思いをお聞かせいただけますか?
伊東: これから時代は大きく変わると思います。ITやAI、そして未知の感染症の蔓延など。若い人は福祉という狭い枠にとらわれないで、あらゆる知見を取り入れて福祉に導入し発展していってほしいと願います。
たとえばVR。ひきこもりの人が自分のアバターを作ってVRの世界で学びに行き、仮想通貨で経済活動する世界。引きこもっていても自立でき、生きていける未来が実現できないか。そういうことを考えられるのは若い人。新しいテクノロジーを活用した社会福祉のように、ものの見方を180度変えられるのは我々ではない、若い人の発想です。
※編集注 内閣府ムーンショット型研究開発制度でも「誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・アバター基盤」の構築が掲げられている。
荒:新しい支援の仕組みやシステムは、担い手の減る少子高齢化の世界にも不可欠ですし、現状に満足せず、次にどういったものが必要になるかを考えながら実際に取り入れてみる気持ちが大事ですね。
中河:荒さんから、在学生へ大学の過ごし方や夢の育て方についてアドバイスをいただけますか。
荒:在学中には目の前の授業や遊びを通して、信頼できる仲間を作ることが大事だと思います。自分が仕事で悩んだ時に同じような福祉の現場を知っている人に相談できるのと、全く知らない人に相談するのとでは全然共感の仕方も違うからです。そして将来就きたい仕事を考えるときに学生生活・進路支援課のみなさんや先生に「どんな仕事があって、それはどういう仕事なのか」を積極的に聞くことで選択肢の幅を増やすことにつながると思います。田園調布学園大学の先生たちは相談すれば応えてくださる方ばかりなので、大学にいる間に広く新しい世界に働きかけることはとても大切です。
中河:ありがとうございます。たしかにDCUは先生と学生の距離がすごく近いです。私自身も「社会福祉」という言葉に漠然としたイメージを持った状態で入学しましたが、実際どういうものなんだろうというところから始まって、進路に対するイメージも少しずつ見えてきました。その過程で、さまざまな悩みや心配事にもじっくり向き合う時間や環境が十分にあるのが大学だと気づきました。がんばりたいと思う人が安心して勉強できるのが大学だと思っています。自分の後輩たちには、田園調布学園大学へ期待と希望を持って入学してきてほしいと言えます。
伊東:中河さんは今とても、大切なことを言ってくれました。なぜわざわざ4年かけて大学に来るのか?それは大学が持つ環境であり時間です。ここには一緒に学べる仲間がいて、じっくり取り組める時間があります。これから社会福祉を志す高校生にはぜひ田園調布学園大学へ来て学んでほしい。福祉という専門職は50年先を考えてもAIやロボットに取って代わられる仕事ではありません。将来性があり、非常に奥の深い世界であり、専門性の高い分野なんです。そういうことを踏まえて、福祉への道を選択していただければ嬉しいなと思います。
今日は忙しい中、みなさんありがとうございました。
二人:こちらこそ有意義なお話ありがとうございました。
子どもを見て、理解することからすべては始まります。
田園調布学園大学大学院
渡邉 英則 兼任講師
学校法人 渡辺学園 理事長・ゆうゆうのもり幼保園 園長
港北幼稚園に勤務しながら青山学院大学大学院博士前期課程を修了。現在、港北幼稚園園長を兼任。
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実習で出会ったおどろきが今の私の原点です。
ゆうゆうのもり幼保園勤務 2014年度卒業
坂本 夏妃 さん
子ども未来学部子ども未来学科を卒業後、ゆうゆうのもり幼保園に就職。現在、勤務6年目を迎え、念願の年長クラスを担任。
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子どもを大事にすること、可能性を信じることを学びました。
子ども未来学部 子ども未来学科4年生
神奈川県立白山高等学校卒業
菊地 ひなの さん
坂本:渡邉先生が保育の世界を志したきっかけはなんだったのですか?
渡邉:母親が港北幼稚園を経営していましたが、それを継ぐ気はまったくなかったんです(笑)。だから機械工学を専攻したんですが、青山学院大学で素晴らしい先生たちに出会いまして、「ああ、幼児教育って面白いな」と。「子どもって夢中で遊んでいていいんだ」と気づいたんです。そこからボクの教育者としての人生が始まりました。
坂本先生がこの世界を目指したきっかけはなんだったのですか?
坂本:私は、自分が通っていた幼稚園が大好きでした。幼稚園の先生も大好きでしたし。それが理由といえば理由ですが、ただ大学在学時は施設への就職も考えていました。でも実際「ゆうゆうのもり幼保園」に実習に来てみて、幼稚園ってすごく楽しいところだな、と。子どものやりたいことを聞いたり、できないことにじっくりつきあってくれる先生を見て、シンプルに「ここがいい!」「ここで働いてみたい」と強く思いました。
渡邉:現在、坂本先生には年長さんを担当してもらっています。本当に子どものことを一生懸命やってくれていて、5年目を過ぎて「保育が面白い」と言うようになってくれたのがとても心強いです。先生は実習生のときから、子どもを理解しようとする姿勢を持っていたと思います。
坂本:年長の子どもたちが自分たちでやりたいことを形にしていく姿を間近で見られ、子どもたちと一緒に私も成長させてもらっていると思います。
渡邉:子どもたちは3歳くらいまではただ遊んでいるだけだけれど、4歳5歳になると自分たちで自主的に、自分の意見をちゃんと主張するようになります。それを担任として身近に見ることで成長を感じながら、保育の面白さを感じてもらっていると思います。
菊地:「ゆうゆうのもり」という現場では理事長・園長先生として、また大学のキャンパスでは大学院の先生として、若い人たちとふれあうことの多い先生からご覧になって、私たち田園調布学園大学の学生・卒業生にはどのような特徴がありますか?
渡邉:田園調布学園大学には「子どもを大事にすること」を大学の文化として伝える先生がいらっしゃる。なにより子どもと出会うことが面白いと学生時代に経験していないと、なかなかうちのような自由な保育は戸惑ってしまうかもしれませんね。子どもたちからいろんな声が出たときに、それを面白がれるかどうか。大学教育で大きな差が出るところです。
坂本:私も「ゆうゆうのもり」に実習で来た時はびっくりしました。でも子どもたちがすごく生き生きしていて、先生も子どものことを信じていて、実習生ながらそれを強く感じました。菊地さんはうちの園を見るの初めてですよね?
菊地:はい。びっくりしました。園全体が遊び場のような造りで、なんだかとてもワクワクしますね。園でこれだけ子どもたちが楽しそうに遊んでいるのを見るのも初めてでした。
渡邉:菊地さんはどうして保育の道を選ばれたんですか?
菊地:私には妹が二人いて、近所の子や親戚の子など自分より年下の子が多くて、いつもお世話しながら過ごしていました。祖母も保育士で、子どもが大好きな人です。そうした環境から、中学生の頃から保育の道を目指していました。
渡邉:若いお二人から見て田園調布学園大学のいいところ、他と違うと思われるところはどんなところですか?
坂本:先生が身近にいて、なんでもどんなことでも相談できたことです。
菊地:私もそうです。先生と学生の距離が近いこと。そして保育の現場出身の先生が多く、人柄がとにかくあたたかい。勉強以外のこともいっぱい相談しています。
坂本先輩にお伺いしたいのは、いま「ゆうゆうのもり幼保園」の現場で活きているDCUの学びはなんですか。また、大学での学びと、実際に現場に出て得たものとの違いは?
坂本:実際に現場に出てみないとわからないことはたくさんあります。子どもの発達のレベルひとつとっても現場では教科書に載っているように決して均一でなくバラバラです。また、個性もそれぞれ違うので、現場で戸惑うこともありますが、それもかえって面白いと思えるようになりました。
渡邉:そういう意味でも、 3・4年生の実習はとても大切で、実習で子どもに出会うことの大切さを痛感します。「子どものことをもっと知りたい」「こういう保育者になりたい」と志したとき、田園調布学園大学の先生たちはしっかりとフォローをしてくださいます。実習中の緊張感はもちろんですが、実習終了後のアフターフォローも学生にはとても重要なんです。そしてこれから学生が答えのない問いにどのように向かっていくか。そういう力を育むことのできる大学教育にもっとなっていくことを私は望みます。
坂本:菊地さんはもう実習には行かれてるんですか?
菊地:はい。実習前は今でも緊張します。園によってそれぞれのカラーが違うので、その中で子どもと関わるにはどうしたらいいか。実際に先輩を見てこういうふうに声かけて、こういう近づき方があるんだな、と学べるので実習は大好きです。また実際の先生を見て自分がどういう保育観を身についていればいいかを考えます。そして現場では失敗を恐れず積極的に関わろうと心に決めています。
渡邉:いいですね。できれば失敗したくないと思うのが普通だけれど、失敗する方がぜったい多くを学べますから。
菊地:大学で先生にそう教わりました。失敗は全然怖いことじゃない、失敗しないといい保育はできない、と。
菊地:この「ゆうゆうのもり幼保園」の大きな特徴はなんですか?
渡邉:ゆうゆうとは、悠々自適の「悠」と「遊」ぶの字を当てます。名前からして「そもそもここは遊ぶ園ですよ」と謳っているのです。そしてなによりも「子どもが子どもらしくいられる施設」であることを願いました。世の中には大人にとって都合のいい施設はたくさんありますが、子どもと遊ぶを大切にする園はなかなか見当たらない。本来、園のいちばんの利用者は子どもなんですよね。だから子どもたちが楽しく過ごせることが第一なんです。
また田園調布学園大学大学院の佐伯先生が提唱されている「あなたはあなたでいいんだよ」という思い。「ゆうゆう」にはあなたを表す「YOU」も込められています。一人ひとりの子どもに「私たちはあなた(YOU)を大切に思っているよ」と伝えることで、子どもが「自分は認められている」と認識できるような、そんな園を目指しています。
菊地:私はここへ初めて来てみて「ああ、遊びたい」と思いました。楽しそうで、子どもはきっと楽しいだろうなって感じました。園長先生のおっしゃる意味がよくわかりました。
渡邉先生と坂本先輩にお伺いしたいのは、保育士としてもっとも大切なことはなんだと思いますか?
渡邉:私はいちばん大事にしているのは「子ども理解」です。子どもをどう理解するか。当園では子どもを見なさい、と。カメラを持ってもらい「ドキュメンテーション」ということを推進しています。子どもと出会って、どんな会話をし、どんな遊びをするのか。「子どもってこんなに面白いんですね」「子どもってこんなことに夢中になるんですね」って実習に来た学生が自ら気づいてくれることがとても嬉しいです。
坂本:実習生が写真撮って「子どもがこんなことやってました」って教えてくれる。それを先生たちをまじえてワイワイ語り合う。
渡邉:その輪に保護者も加わって「あなたのお子さんはこんなに素敵だ」ってどんどん広がります。その子はその部分をどんどん伸ばしていける。人間は相手の悪いところや、できていないところは見えるけれど、いいところはなかなか見つけてあげられないじゃないですか。でもだからこそ、みんなで子どもを理解し、いいところを全力で伸ばしてあげる。それが大事なんです。いろんな子どもがいることで、いろんな保育の可能性がある面白さ、ワクワク感を保育者が知ること。それを繰り返すことで見えてくるものはとても大きいと思います。
坂本:渡邉先生はまた、子どもを大事にするのと同じくらい私たちのことを大事にしてくださいます。私のやりたいことや子どものやりたいことに対して「やってみたら」って背中を押してくださいますし、一緒に面白がって、たくさんアドバイスをくださいます。
菊地:坂本さんは保育でいちばん大切にしていることはなんですか?
坂本:私が保育でいちばん大事にしていることは「遊びの中で学ぶこと」ですね。子どもたちは遊びの中からさまざまな発見し、いろんなことをできるようになります。私も子どもたちと一緒に探していくことで明日につながる保育ができたらいいなと考えています。
坂本:ところで今回の鼎談は「バトン」がテーマですが、渡邉先生はどんな「思いのバトン」を私たち若い世代に託したいとお考えですか?
渡邉:私が未来へつなぎたい思いは、どんな時代になっても「子どもの可能性を信じること」。子ども一人ひとりは一生懸命生きようとする。そこにきちんとつきあってあげる先生や保護者がいたら、子どもはぜったい伸びていくんです。そこを保育者は信じてあげてほしい。関わり方がうまく見つからないときがお互い苦しい。あ、この子はこういう子なんだとわかった時に向こうも変わるし、こちらも変わる。それを見つけられる先生であってほしい。何年経っても変わらず「やっぱ子どもってすごいね」って思えるような人間でいたい、それが保育者だろうと思います。
坂本:そうですね。私も子ども一人ひとりの思いも大事にしていきたいと思います。
渡邉:そう。子ども同士の関係の中でもどんどん変わっていくからね。
坂本:それに気づける人でありたいですね。
菊地:私はまだこれからですが、お二人がお話ししてくださったように、子どもの気持ちや目線に寄り添った保育をしていきたいと思います。実習でもまだまだできていないことも多いですが、子どもをちゃんと見て、大人なんだけれど自分の心は子どものまま、子どもといっしょに遊び、怒り、笑い泣き、子どもが感じていることを伸ばしてあげたい。保護者の方にも信頼されて「子育てって楽しいですよね」って言い合えるような関係性を築いていきたいと思います。
渡邉:すばらしいね。その気持ちをずっと大事にしてください。
そんな菊地さんがいま現在、大学でもっとも力を入れていることはなんですか?
菊地:大学の授業はもちろんですが、それらを学んでいる中で、自分の固定観念にとらわれず、考えや視野を広げるために、たくさんの本を読み、感性を豊かにできるよう意識しています。専門演習ゼミでは社会的養護、非行、犯罪、更生保護について学んでいます。また実習以外に、ボランティアを通して様々な人や子どもと関わる機会を多く持っています。将来子どもたちや保護者の方としっかり関係を築けるように在学中には、コミュニケーション能力や思考スキルを磨いていきたいと考えています。
先輩お二人のお話を伺って、自分の入りたい世界で活躍するためのヒントをたくさんいただきました。ぜひ最後に私たち在学生へアドバイスをお願いします。大学生活のすごし方や夢の育て方また、学生のうちに学ぶべきこと、身につけておくべきことなどありましたらご教示ください。
渡邉:大学生活には、今菊地さんが持っているような積極性とか、主体性がとても大事だと思います。自分がどう感じるか、どう思うか、は動いてみないとわからない。踏み出す力は人に出会うことや、いろいろな場所で経験することで培われます。大学生だからこそ、自由にあらゆる経験をすることでその人の魅力が増していく。そんな自分を伸ばす生活をしてほしいと思います。
坂本:「自分がどう思ったか」が大事なんです。私が実習生の実習日誌をチェックの際、「どう感じましたか?」「明日はどうしたい?」と問いかけます。自分はどう考え、自分だったらこうする、という気持ちを大事にしてほしいですね。
菊地:正直、まだ個人的には保育者としてちゃんと働いていけるか不安も多く、わからないことばかりですが、今日お二人の話を聞いて、一歩ずつ、子どもの気持ちを大切にした関わりを築ける人になろうと思えるようになりました。これからの実習に活かしていきます。ありがとうございました。
渡邉:どうかがんばって素敵な保育者になってくださいね。期待しています。
坂本:本日はありがとうございました。
菊地:ありがとうございました。